◆二階堂黎人様のご質問への回答◆
【この回答について】
二階堂黎人様は8月30日付の恒星日誌にて探偵小説研究会宛の質問状の要旨を公開されています。すなわち、二階堂様の質問状は広く一般に向けて、研究会の返答を迫ったものです。したがって、研究会としても公の場で答えるのが適切と考え、回答を研究会サイトへ掲載させていただくこととしました。その際、恒星日誌の要旨へのお返事では二階堂様の質問に逐一回答したことにはならないと思い、二階堂様の質問項目に添ってご回答することにいたしました。
当方にてまとめた、二階堂様の質問内容に関して、意に染まない表現があれば、全文の公開を許諾いただきますようお願い申し上げます。
なお、可能であれば、これまでの経過を明らかにするため、二階堂様と研究会とのあいだで交わされたメール全部の公開をお願いします(研究会側には、メール公開への異論はありません)。読者の方々になるべく議論の経過を開示し、公平な読者の判断を仰ぐ関係上、諾否の返事は日記、掲示板等、公開の手段で行ってください。なお、今後メール、手紙等非公開の手段で当会に連絡された場合、その内容を公開することがあります。
※以下は、二階堂様宛てに送信した回答メールの本文です。
【回答メール本文】
二階堂黎人様
ご質問に対して、探偵小説研究会としての回答を申し上げます。
まず最初に断っておきますと、探偵小説研究会は、さまざまな個性や意見を持つ評論家の集まりです。作品の評価をはじめ本格ミステリのあり方について見解が異なるのは自然なことであり、それらを強引に統一させるべきとの立場には与しません。
しかしながら、個々人の物書きとしてのスタンスを超えた、研究会全体の運営に関しては、会としての見解を作家や読者の皆さまにお伝えするべきであろうと考え、お答えを返すことにいたしました。
質問(1)「笠井潔と研究会の関係はどうなっているのか?」についてお答えいたします。
これまでも笠井潔は一会員にすぎませんでした。笠井に限らず、これまでも全会員が義務的に『本格ミステリ・ベスト10』(以下、『ベスト10』)に関わってきたわけではありません。特別会員になった笠井が今後も関わるかどうかは笠井個人の判断であり、研究会は関知しておりません。『ベスト10』の創刊や、東京創元社から原書房への版元移籍時に、笠井に先導的な役割を担っていただいたのは事実ですが、本誌の企画編集、執筆作業については当初より、会員間の合議、分担に拠っています。したがって、笠井が今後関わらないとしても『ベスト10』の刊行には何ら支障は生じません。
なお、特別会員問題に関しては、笠井が近日中に、なんらかの形で公に説明する予定です。特別会員の意味について補足させていただきますと、研究会の活動に参加はできるが、研究会員としての義務は負わないという、いわば第一線を退いた立場を指します。
質問(2)「探偵小説研究会の責任と責務の所在はどこにあるのか?」については、冒頭に記したとおりですが、若干補足させていただきます。『ベスト10』の編集をはじめ、さまざまな仕事をするうえで、会員間で話し合いを行いながら進めているため、質問に答えるとすれば「研究会の運営についての責任・責務は会全体にある」ということになるでしょう。ただし、繰り返しになりますが、個別具体的な問題については、会員それぞれに考えがあり、それらに関する責任は個々の会員に帰することになります。
上記の姿勢は、『ベスト10』の編集に際しても変わるところはありません。二階堂様の質問(3)は「『ベスト10』の投票は『本格』の尺度を適切に反映しているのか?」、質問(4)は「年々、『本格』の尺度が曖昧になっているのでは?」というものでした。その答えについては、このメールと前後して探偵小説研究会のサイトにアップされる一般向けのアピールをもって代えさせていただきます。
質問(5)「『このミステリーがすごい!』と『ベスト10』の差別化」については、商業出版物として見た場合、両者が似たような結果となることが好ましくないのは事実です。しかしながら、この点に対する有効な対応は容易には見いだせません。少なくとも、双方への重複投票を認めないという提案は実現困難です。仮に、本格ファンは『ベスト10』のみに投票するという状態を作り出せたとしても、その結果として『このミス』のランキングから意図的に本格ミステリを弾きだしてしまうような事態は、本格ミステリにとって望ましいことでしょうか?
質問(6)「研究会メンバーの技量の差をどうするのか?」についてですが、研究会が、会員を新しく迎え入れる場合、以前にその会員が書いた文章を参考にするなどして「これなら一緒に仕事ができる」と判断した者を会員にしています。もちろん(新しかろうと古かろうと)それぞれの会員が書いた文章に瑕疵があることは免れませんし、ある会員が書いた文章の技量が「低い」と判断されたなら、遠慮なく批判してください。その批判が正当なものであれば、その会員は、自己研鑽を積むでしょう。逆に、不当と考えれば、それはオープンな議論のきっかけとなるかもしれません。付言すれば、会員が各々の原稿を発表し、技量を切磋琢磨する機会を設けることが、『CRITICA』を創刊した一つの意味合いでもありました。
質問(7)「投票前の、会員間の不要なコンセンサスの形成をできるだけ排除する方法を整えていただきたい」についてですが、「不必要なコンセンサス形成」の意味するところが、『ベスト10』等への投票行為における研究会内の談合を指すのであれば、そのようなコンセンサス形成は行っていないと断言します。しかしながら、仮に「個々の作品に関する評価について各自が投票前に意見を表明すべきではない」との趣旨であれば、作品評を外に向けて発信するのが評論家の仕事である以上、二階堂様の意に添うのは不可能と言わざるをえません。作品評価を語らない評論家なるものは形容矛盾ではないでしょうか。また、会員相互の自由な意見交換の機会を封じれば、そもそも『ベスト10』の編集さえ不可能になることでしょう。
質問(8)「回答によっては、本格系作家は『ベスト10』に協力できない」についてですが、以上の回答にご納得いただけない作家、評論家、読者の方々がいらっしゃれば、二階堂様に限らず、それは致し方がないと申し上げざるをえません。
探偵小説研究会としては、『ベスト10』の刊行を続行することが、本格ミステリの輪郭を画していくうえで重要であると判断し、皆様のご協力を仰ぎたいと考えております。
2006年9月11日
探偵小説研究会
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