Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第18号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第18号
 (2023年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

特集――国内短編ミステリの百年
〈座談会〉国内短編ミステリの百年を語ろう 市川尚吾×嵩平何×廣澤吉泰×諸岡卓真×横井司
国年短辺ミステリ百年の外観
 1923~1932/江戸川乱歩の登場と探偵文壇の誕生 横井司
 1933~1942/新世代作家の登場とマルスの足音 横井司
 1943~1952/アジア・太平洋戦争後の豊穣 横井司 
 1953~1962/松本清張・仁木悦子と第三の新人たち 横井司
 1963~1972/冬の時代の動向と復刊ブーム 嵩平何 
 1973~1982/『推理小説代表作選集』(一九七四~八三)レビュー 廣澤吉泰
 1983~1992/新本格の鳴動 嵩平何 
 1993~2002/アマチュアの下支え 市川尚吾 
 2003~2012/歴史的大ヒット連作の登場と新たな市場の開拓  嵩平何 
 2013~2022/私的短編ベスト10 諸岡卓真 


解放区
 原作と映像の交叉光線 出張版20/愛のピラミッド――『ナイル殺人事件』 千街晶之
「トクマの特選!」の仕掛け人・井田英登氏インタビュー インタビュアー・千街晶之 

執筆者後記


序文

 『CRITICA』18号をお届けする。

 二〇二三年は、江戸川乱歩の「二銭銅貨」が『新青年』一九二三年四月号に掲載されてから、ちょうど百年目に当たる。研究会の集まりで次の『CRITICA』の特集は何にしようか、という協議があったときに、乱歩デビュー百年という声が上がったのは、当然といえば当然であった。だが、江戸川乱歩特集なら、すでに本誌10号で「江戸川乱歩歿後50年」と題して行なわれている。その際は、10号という切りのいい号数だったので、同時に「創刊10周年記念特大号」を謳い、当時所属していた全会員の寄稿を実現させたものであった。そうしたことを思い出しているうちに、乱歩絡みで乱歩を前面に押し出さず(それは他でやるだろうから)、会員全員が執筆できそうな企画、という縛りをかけて捻り出されたのが、乱歩の「二銭銅貨」を起点として現在までの日本におけるミステリ短編の歩みを、10年ごとに区切って概観するというのはどうだろうか、というアイデアだった。10年ごとに区切れば会員の参加も促せるし、研究会の実働力を示せるのではないか、上手くいけばこのまま出版企画としても通用するだろう、という腹づもりもあったわけだが、蓋を開けてみればご覧の通り、執筆者が一部の会員に偏ってしまったことには、忸怩たるものを感じる次第である。

 日本のミステリ短編の歴史を概観するという試みは意外と見られない。乱歩がデビューしてから松本清張と仁木悦子が登場するまで、あるいはその後のミステリ・ブームにおいて、佐野洋や結城昌治といった作家が登場するまでは、乱歩自身がさまざまな形で言及しているので、見取り図が作りやすい。また、一九二三年から乱歩が亡くなる一九六四年までの短編作品は、さまざまなアンソロジーを通して掘り起こされ、言及される機会も多い。一九七〇年前後から、『新青年』や『宝石』といった専門誌を看板に掲げたリバイバル・アンソロジーが編まれるようになり、その後も中島河太郎や鮎川哲也、渡辺剣次によってテーマ別アンソロジーが流行し、それまで読むことが難しかったアジア・太平洋戦争前から高度成長期くらいまでの代表的な短編が簡単に読めるようになった。一方で、それ以降、いわば社会派ミステリ以降の、中間小説誌や週刊誌といった専門誌以外に発表された短編が、日本推理作家協会が編纂する年鑑類を除けば、簡単に読めない状況となっている。それと同時に、新書(のちには文庫)を中心とする書き下ろし長編が盛んとなり、長編を中心とするミステリ史観が主流となったことも、短編ミステリ史を考える妨げになったことは否めまい。その意味では、現在、ちくま文庫や光文社文庫、中公文庫で、さまざまな傑作集が編まれている状況は喜ばしい。中公文庫では、非プロパーのいわゆる文壇作家によるものをまとめており、特色がある。それでも基本的に作家単位であり、短編ミステリの百年を概観するには未だしの感が大きい。

 ある種の短編は、それが発表された時代の文脈の中で位置づけられてこそ、その価値が判る場合が多い。そうした時代の文脈を知るという意味でも、乱歩がデビューして以降の短編を概観することは重要だろう。現代の短編ミステリも時代の文脈や潮流の中で位置づけてみると、何がしかの発見があるかもしれない。逆に、現代の短編ミステリから過去の短編ミステリの魅力が再発見されることもあるだろう。今回の特集は、そうした歴史的感覚を捉え直す意味でも意義のあるものだと思われるが、それが実際に達成されているかどうかは、個々の読者の判断に委ねたい。

 今回はメイン特集に労力を注いだので、現代ミステリの状況を観測する第二特集は見合わせた(メイン特集の後半がそれに相当するともいえる)。また解放区においては、千街晶之の〈原作と映像の交 クロスライト叉光線・出張版〉に加え、〈トクマの特選!〉という、これも昭和ミステリのリバイバル企画の仕掛け人である井田英登氏へのインタビューを掲載した。後者は、梶龍雄や笹沢左保、都筑道夫の長編を復刻することで、近年稀に見る支持を得て成功した企画の裏側を伝える貴重な証言である。短編ミステリ百年の企画ともゆるやかに連動しているだけでなく、現在の出版事情もうかがわせて、興味の尽きない読み物となっている。ご愛読を乞う次第である。


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