Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第17号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第17号
 (2022年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

特集――華文ミステリ
〈特別寄稿〉月と人狼 既晴/阿部禾律訳
既晴さんインタビュー
羽住紀子構成
2008年5月12日の記憶――「時光代理人」と『君の名は。』 荒岸来穂
中国語圏におけるミステリ周辺書紹介(日本ミステリ篇)(不完全版) 嵩平何
『南京路に花吹雪』について 廣澤吉泰 
四つの厳粛な推理――陸秋槎『文学少女対数学少女』を読む 横井司

現代本格の動向
探偵は陰謀論の夢を見るのか――米澤穂信作品を中心に 荒岸来穂
地の文試論 市川尚吾
原作と映像の交叉光線(クロスライト)  

解放区
 探偵小説とアフガニスタン 秋好亮平
ヴァルハラ城再訪 市川尚吾
原作と映像の交叉光線 出張版19/操りのピタゴラ装置――『女子高生に殺されたい』 千街晶之 

執筆者後記


序文

 『CRITICA』17号をお届けする。 今号は海外ミステリ特集回ということで、前々号のフランス・ミステリ特集に引き続き、特定の作家を取り上げるのではなく、アジア圏のミステリをテーマと定めた。

 アジア圏の国々で書かれるミステリを〈華文ミステリ〉と名づけたのは、いつごろのことで、誰によって提唱されたことなのか、今、調べている余裕はないのだが、すっかり定着した感がある。手許には、二〇一四年に風狂殺人俱楽部が電子書籍版でリリースした『現代中国・台湾ミステリビギナーズガイドブック』の特別印刷増補版があり、同サークルは翌二〇一五年に『2016現代華文ミステリ最前線! ―現代中国・台湾ミステリビギナーズブックガイド2』を印刷版で上梓しているので、そのころから定着し出したものと推察される。

 二〇〇八年に台湾で島田荘司賞が創設され、翌年、寵物先生(ミスター・ペッツ)『虚擬街頭漂流記』が第一回受賞作として選ばれた。同書が翻訳刊行されたのが二〇一〇年のこと。そして二〇〇九年から二〇一〇年にかけて島田荘司の監修で〈アジア本格リーグ〉全六冊が上梓されたが、同叢書には中国、台湾、韓国の他にインド、インドネシア、タイといった国々も含まれていたことからも明らかなように、このころはまだ〈華文ミステリ〉という括りが生まれていたわけではなかった。それからしばらくして、風狂殺人俱楽部からのリリースがあったことを鑑みるに、おそらくはインターネットを中心として盛り上がりを見せていき、二〇一七年に陳浩基の『13・67』(二〇一四)が翻訳されて年末の各種ベスト10で話題となり、電子書籍で刊行された『現代華文推理系列』全三冊が本格ミステリ大賞/評論・研究部門の候補となるなどして、〈華文ミステリ〉に対する認知度が一気に読書界に広まったということではないか。

 このあたりの受容史はまとめられてしかるべきだと思う(すでにまとめられているかもしれない)。いずれにせよそ3の後も、二〇二〇年に〈出版社対抗プレゼンバトル/この華文ミステリがアツい!〉が開催され、『ミステリマガジン』二〇二一年十一月号から「華文ミステリ招待席」という、華文ミステリの未訳短編を毎号紹介していく連載企画が始まるなどして、〈華文ミステリ〉というタームがすっかり定着した感がある。今回の特集はそうした状況を見据えてのものである。

 巻頭には第3回北海道ミステリークロスマッチに投稿され、第3位となった台湾出身作家・既晴(きせい)氏の創作と、第2回の同イベントに「疫魔の火」を投稿された際に行われたインタビューを再録した。いずれもインターネット上で公開されているものだが、これを機会にさらに広く知られ、読まれることになれば幸いである。

 研究会員の寄稿はアニメからまんが、研究書から作家論と、バラエティに富んだ視点からのアプローチとなったので、楽しんでいただけるのではないかと自負する。

 第2特集である「現代本格の周辺」では、米澤穂信作品を対象とする論考と、法月綸太郎のロス・マクドナルド論に触発された、本格ミステリにおける地の文をめぐる考察を配した。現代本格をめぐる喫緊の問題や課題とすべきトピックを確認していただけるのではないかと思う。それぞれの関心に従って論じたものとはいえ、第1特集における「時光代理人」論や陸秋槎論とのインターコース性にも注目していただければと思う。

 「解放区」には千街晶之の連載「原作と映像の交叉光線(クロスライト)・出張版」に加え、探偵小説に描かれてきたアフガニスタン表象とたどるエッセイと、宇神幸男『ヴァルハラ城の悪魔』(一九九七)をめぐるエッセイを掲載。後者は、作家・乾くるみ誕生の時代を垣間見させ、宇山日出臣追悼文ともなっており、興味は尽きないであろう。

 今号を編集している間にも、新型コロナ禍はもとより、ロシアによるウクライナ侵攻も終息の気配を見せず、国内では元総理への狙撃事件まで発生してしまった。昨今の情勢を鑑みると、本格に限らず、ミステリにおけるロジカルな表現が持つ可能性と同時に、その是非と限界について考えずにはいられない。本冊子が動乱の世における貧者の一灯ともなれば、これに優る喜びはない。 最後になったが、今回、既晴氏の創作とインタビューを掲載できたことで、特集にも厚みが加わることとなった。掲載を許諾していただいた既晴氏には感謝いたします。


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