Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第15号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第15号
 (2020年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

特集――フランス・ミステリ
ささやかな読書量でフランス・ミステリの十傑を選んでみよう 横井司
革命は待つことができない J=P・マンシェットと六八年五月
秋好亮平
ミステリコミック事情(アルセーヌ・ルパン編) 廣澤吉泰
フランスミステリの紹介者たち 嵩平 何
明治・大正期におけるモーリス・ルブラン 〈アルセーヌ・ルパン〉シリーズの翻案――復刻と解題 末國善己 

特別寄稿
本格ミステリ戯作三昧・弐 カミ篇
《贋作篇》サーカスが来る 飯城勇三
《評論篇》カミは伏線に宿る――あるいは〈バカミス〉を〈奇想〉に変える五つの方法 飯城勇三

現代本格の周辺
可能性(みらい)は探偵の手の中――井上真偽論―― 荒岸来穂
リバチル伏線明示モード 市川尚吾

解放区
収容所とホテル――東浩紀、笠井潔、森村誠一における人と数の問題 円堂都司昭
 台湾版『謎解き名作ミステリ講座』刊行! 佳多山大地 
原作と映像の交叉光線(クロスライト)  
   出張版15/阿呆船の祭り――『アルキメデスの大戦』 千街晶之
   出張版16/黒い羊の出発――『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』 千街晶之 
 (創作)頂上まで七分間 羽住典子
 (翻訳)アーサー・B・リーヴ「白い奴隷」 波多野健(訳&解説) 

執筆者後記



「CRITICA」第15号 序文

 『CRITICA』15号をお届けする。

 毎回、日本作家(国内ミステリ)と海外作家(翻訳ミステリ)を交互に取り上げてきているわけだが、今回は海外ミステリの番というわけで、第1特集はフランス・ミステリを取り上げることになった。なぜ、特定の作家ではなく、特定の国のミステリなのか。二〇一四年にピエール・ルメートルの『その女アレックス』が文春文庫から刊行されて話題を呼び、それと踵を接するようにして、現代フランス・ミステリが集英社文庫から次々と刊行され、さらにはジャン゠クリストフ・グランジェが再び脚光を浴び、行舟文化という地方小出版社からポール・アルテの未訳作が久しぶりに刊行される等々、ブームといえそうなくらい、時ならぬ活況を呈している。そうした状況を鑑みて、特定の作家ではなく、特定の国のミステリを特集してみようということになった。きっと現代の日本の読書界を賑わしているルメートルやミシェル・ビュッシ、本格ファンに随喜の涙を流させているポール・アルテについての論考がキラ星のように並ぶに違いない――というのが、編集担当者の目論みだったわけである。目次を見ていただければお分かりの通り、それは見事に外れるわけだけれども。

 本誌で論じられている作家でもっとも新しいのが、J゠P・マンシェットだ。マンシェットは、七〇年代半ばに初めて紹介されて後、九〇年代半ばにノワールに対するプチ・ブームがあった時に再注目され、ゼロ年代後期には光文社古典新訳文庫から刊行されるという、ある意味、息の長い作家である。マンシェットの受容が示すような、日本におけるフランス・ミステリの受容史を振り返るのが、フランス・ミステリ受容時代別ベストテンと、フランス・ミステリ紹介者たちの鳥瞰図というわけだ。明治・大正時代におけるルパン翻案の復刻は、受容史におけるほぼ最初期の状況をうかがわせるし、アルセーヌ・ルパンのコミカライズは、むしろ近年の受容のあり方をあぶり出しているといえるかも知れない。その意味では、フランス・ミステリ紹介者の鳥瞰図を補足するものでもある。そして、飯城勇三氏の特別寄稿の対象作家であるカミは、近年、再評価ないし再発見が著しい作家であることを鑑みるなら、意外とまとまりの良い特集に仕上がっているのかも知れない。――というのは、やはり手前味噌に過ぎるか知らん。

 第2特集である「現代本格の周辺」には、井上真偽を対象とする作家論と、梓崎優の『リバーサイド・チルドレン』を対象とする作品論を配した。現代本格の現状とその精華を確認していただくことができるのではないか。

 「解放区」は、いつになく賑やかである。『ディストピア・フィクション論』をまとめた円堂都司昭による同書の補論となる新稿に、佳多山大地が『謎解き名作ミステリ講座』の台湾版のために書き下ろした、これも最近勢いがあるアジアン・ミステリの書き手についての新稿二本立てに加え、千街晶之による連載「原作と映像の交叉光線(クロスライト)」が、これも二本。他に羽住典子の書き下ろし創作と波多野健の訳し下ろし翻訳を収めた。

 今号はもともと、東京オリンピック開催のために、八月に行なわれるはずだったコミケが五月に繰り上げられたことを踏まえて、〆切が設定されていた。その後、新型コロナウイルスが世界中で猖獗を極めたため、オリンピックが延期となっただけでなく、コミックマーケットの方も中止、文学フリマも中止となった。本誌の〆切を設定するために出店を想定した北海道での文学フリマ札幌も、開催中止が決定された。結局は、八月のコミケに合わせてという、平時と変わらぬ刊行ペースを維持する結果となった。それでも、研究会員から感染者を出すことなく、またDTP作成会社や印刷および製本所が稼働してくれているおかげで、刊行できるだけでも幸いであったと考えるべきだろう。現在は、ネットなどを通して通販網も存在している。本号は研究会員のみならず、そうした多くの人たちの助けを得て刊行にこぎつけている。そのことに、あらためて感謝したい。

 最後になりましたが、前号に引き続き玉稿をお寄せいただいた飯城勇三氏にもまた、感謝の意を表します。ありがとうございました。


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