Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第14号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第14号
 (2019年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

特集――鮎川哲也誕生100周年
探偵小説の実験場――『ペトロフ事件』と満洲 秋好亮平
なぜ『死びとの座』が鮎川哲也最後の長篇になったか?
佳多山大地
角川文庫で読む鮎川哲也  廣澤吉泰
幻の『幻の探偵作家を求めて』を読みたい・こんな鮎川アンソロジーが読みたい 嵩平 何
鮎川哲也と『チェックメイト78』 飯城勇三 
〈付録〉『チェックメイト78/シューベルトを聴く警部』脚本抜粋  

現代本格の周辺
予知ミステリの達成と注意点 市川尚吾
『元年春之祭』――歴史のパラダイムシフトを本格ミステリで描く時 波多野健
『スメラギドレッサーズ』考――非ミステリ漫画の中の叙述トリック 飯城勇三

解放区
続『山本周五郎探偵小説全集』後拾遺――新発見作品解題 末國善己
原作と映像の交叉光線(クロスライト)  
   出張版12/禁忌と境界――『悪魔が来りて笛を吹く』 千街晶之
   出張版13/ドイツの秋、魔女たちの冬―『サスペリア』 千街晶之 
   出張版14/救済ある古典部の浄化――『氷菓』 千街晶之

執筆者後記



「CRITICA」第14号 序文

『CRITICA』14号をお届けする。

 今回の特集は「鮎川哲也生誕100周年」と題して、標題の通り、アニバーサリー・イヤーであることも鑑みて、鮎川哲也をめぐる論考をまとめた。

 このところ鮎川哲也作品の刊行が立て続けに続いている、という印象がある。二〇一七年に論創ミステリ叢書の一冊として『鮎川哲也探偵小説選』が上梓され、未完のままとなっていた「白樺荘事件」が、原型長編『白の恐怖』とともに、合本となってまとまった。と同時に、鮎川が手がけた翻訳作品をまとめた『鮎川哲也翻訳セレクション/鉄路のオベリスト』が論創海外ミステリの一冊として刊行されている。表題作はカッパ・ノベルス版の再刊ではなく雑誌『EQ』に連載されたバージョンでの復刻であった。翌二〇一八年には、光文社文庫の一冊として『白の恐怖』が、初版本に併録されていた短編とともに初めて文庫化される。そして今年(二〇一九年)に入って、少年ものをまとめた『鮎川哲也探偵小説選』が二分冊で、また、記憶に残る名作を残しながら忘れられていった作家やその遺族に対するインタビューをまとめた尋訪記『幻の探偵作家を求めて』の完全版が二分冊で刊行されるといった具合だ(いずれも論創社刊)。後者には、鮎川が編んできたアンソロジーの解説まで収録されるといった具合で、音楽関連の仕事以外は、すべて俯瞰できようかという勢いである。

 もっともこうした現象は、右の記述からも分かる通り、創作における業績が再評価されているというより、これまでに単行本化されなかった著作が、ここにきてまとめられ始めたというべきだろう。『白の恐怖』光文社文庫版のカバー袖を見ると、リスト・アップされているのは同書の他に、長編では『黒いトランク』『黒い白鳥』『憎悪の化石』『翳ある墓標』の五編、短編集は『崩れた偽装』『完璧な犯罪』の二冊に過ぎない。鮎川名義でのデビュー作と日本推理作家協会賞受賞作、そして絶版だった期間が長いため「幻の」と冠がつくようになった長編だけで、星影龍三シリーズの短編が文庫で読めないというのは、いかにも淋しい。もっとも、創元推理文庫に収録された長編はまだ生きているのかもしれないし、紙媒体ではなく電子書籍であれば、もう少し読める作品の数は増えるのかもしれない。それでも現在の再刊ブームともいうべきものが、一般の読者よりもマニアと呼ばれる読者向けの傾向が見られるのは、明らかなように思われる。

 もしかしたらそれは、鮎川哲也論の少なさも関係しているのかもしれない。芦辺拓・有栖川有栖・二階堂黎人編『鮎川哲也読本』(一九九八)、三國隆三『鮎川哲也の論理―本格推理ひとすじの鬼』(一九九九)、そして歿後にまとめられた追悼文集である山前譲編『本格一筋六十年―想い出の鮎川哲也』(二〇〇二)以後、その業績を振り返る試みは、文庫の解説などを除けば、いっさいなされていないのである。ミステリ・ファンの興味は、まず何よりも作品を読むことに置かれるとはいえ、これまた淋しいことではないだろうか。

 今回の特集が、鮎川作品に対する再評価を促す契機となれば幸いである。

 第2特集として、現代の本格ミステリにかかわる論考をまとめた。国内の本格ミステリにおいて、ひとつの傾向として存在する予知ミステリというサブ・ジャンルに対する問題提起を放つ市川尚吾。中国や台湾、韓国などのアジア圏のミステリに改めて脚光を与え、華文ミステリなる言葉を流行らせた『元年春之祭』を基に、ミステリにおける歴史認識に迫る波多野健。まんがにおける叙述トリックの傑作を取り上げた飯城勇三。いずれも現代本格ミステリとその周辺事情に対するアプローチを試みた力作であり、愛読を乞うものである。

 解放区には、千街晶之の連載「映像と原作の交叉光線(クロスライト)」出張版と、前号に掲載した末國善己「『山本周五郎探偵小説全集』後拾遺」続稿をまとめた。ヴァラエティという点では前号に及ばないものの、会員の関心と仕事のレンジの広さを確認いただければ幸いである。

 最後になったが、今回、飯城勇三氏の玉稿を掲載できたことは幸いであった。ご寄稿いただき、感謝する次第です。


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