◆「CRITICA」第13号 目次◆
探偵小説研究会編著「CRITICA」第13号
(2018年 8月発行、A5版、表紙カラー)
目次
特集――アガサ・クリスティーのライヴァルたち
ハリエットとアマンダ―あるいは、セイヤーズとアリンガム |
横井司 |
はなれわざ小論
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市川尚吾 |
特別寄稿
戦時下の探偵小説とモダニズムの変容 |
荒岸来穂 |
明治を超越する「化物」たち |
池堂孝平 |
解放区
狩人の悪夢小論 |
市川尚吾 |
『アンクル・アブナーの叡知』100周年 |
横井司 |
『山本周五郎探偵小説全集』後拾遺 |
末國善己 |
原作と映像の交叉光線(クロスライト) |
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出張版9/眠り男の悪夢―『帰ってきたヒトラー』 |
千街晶之 |
出張版10/マイ・フェア・ジェントルマン―『キングスマン』 |
千街晶之 |
出張版11/雪の街の探偵―『探偵はBARにいる』 |
千街晶之 |
コミックレビュー落穂拾い二〇一七 |
廣澤吉泰 |
「角川映画シネマ・コンサート」雑感 |
円堂都司昭 |
〈創作〉半分オトナ |
羽住典子 |
仁賀先生のこと―仁賀克雄氏追悼 |
笹川吉晴 |
◆「CRITICA」第13号 序文◆
『CRITICA』13号をお届けする。
今回の特集は「アガサ・クリスティーのライヴァルたち」と題して、クリスティーと同時代の女性作家をめぐる論考を冒頭にまとめた。近年は、アガサ・クリスティー作品の映像化が著しく、改めてクリスティーの人気を江湖に知らしめた。だからクリスティー特集を、というのでは芸がなく(それに以前、特集を組んでいることでもあり)、クリスティーのライヴァルと目される英国女性作家の本格ミステリに関する論考を集めた次第である。
クリスティー、ドロシー・L・セイヤーズ、ナイオ・マーシュとともに、イギリス四大女性作家として盛名を馳せるマージェリー・アリンガムは、このところ創元推理文庫や論創海外ミステリを通して、その作品の紹介が進んでいる。アリンガムに関しては、アルバート・キャンピオンの登場する未訳長編は、残すところ六編(私家版として上梓された『ミステリー・マイル』も既訳としてカウントすれば五編)となり、キャンピオンものの短編をまとめてきた創元推理文庫からは、幻のノン・シリーズ長編デビュー作『ホワイトコテージの殺人』まで訳されて話題を呼んでいる。そうした中、セイヤーズにも言及しながらアリンガム作品を論じた横井論文は、時宜にかなったものであろう。
アリンガムに比べると、クリスティー的作風の後継者として、日本の海外本格ファンの間で人気を馳せたクリスチアナ・ブランドは、ほぼ全作品が訳されたにもかかわらず、代表作の入手が難しい。こういう状況は、ディクスン・カーの受容にも似ており、本格ミステリに限らず、ミステリの受容というのは、そういう波を伴うものなのかもしれない(逆にいえば、途切れることなく代表作が手に入るクリスティーの怪物ぶりが、改めてはっきりするわけだけれども)。そういう出版の波に左右されず、良いものを伝えていき、受容の波を作り出すのも、評論の重要な役割のひとつであろう。市川の論考によって、ブランドが、かつて代表作と謳われていた『はなれわざ』とともに、改めて脚光を浴びることを期待したい。
現代日本の本格に関する特集は、今回、論考の数が少なかったため、第2特集として立てることはしなかった。諒とされたい。
その代わりといっては何だが、特別寄稿として、荒岸来穂氏の「戦時下の探偵小説とモダニズムの受容」と、池堂孝平氏の「明治を超越する『化物』たち」の二論文を得られたのは幸いであった。前者は、戦時下に弾圧されたとされる日本探偵小説をめぐる論考、後者は、山田風太郎の明治ものについての論考である。いずれ劣らぬ力作であり、愛読を請うものである。
今回も解放区では、研究会員の関心のおもむくまま、あるいはその評論活動や創作活動に従うままに、さまざまなジャンルに対するヴァラエティあふれる原稿を集めることができた。現代日本の本格については、特集として立てられなかったものの、市川尚吾による有栖川有栖作品についての論考を、解放区で読めることを喜ばしく思う。メディアやミステリ・ファンの間ではあまり話題になっているとは思われないアンクル・アブナー生誕100周年(第一短編集の刊行を基点とする)をフィーチャーした横井司の原稿は、意表をつかれる思い。末國善己が地道に進めている
山本周五郎ミステリの中間報告は興味深い読物である。共著者とともに『21世紀本格ミステリ映像大全』をまとめた千街晶之による「原作と映像の交叉光線(クロスライト)」、『ミステリマガジン』や『本格ミステリ・ベスト10』においてミステリ・コミックのレビューを担当する廣澤吉泰の「コミックレビュー落穂拾い」、視聴覚文化に対するアンテナを張り巡らせることに怠りない円堂都司昭の「『角川映画シネマ・コンサート』雑感」などは、それぞれの執筆者の、仕事に留まらない情熱がうかがえる好読物といえるだろう。小説家としての著書もある羽住典子の創作にも御注目。
昨年12月末、作家、評論家、翻訳家などの多彩な顔を持つ仁賀克雄氏が鬼籍に入られた。謦咳に接した笹川吉晴に氏の横顔を偲んでもらい、会として追悼の意を表するものである。あらためて仁賀氏のご冥福をお祈りしたい。
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