Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第4号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第4号
 (2009年 8月発行、A5版、表紙カラー、イベント頒布価格1500円)

「クリティカ」第4号表紙(小)

目次

序文(読む

第一特集 現代本格の状況
大量死大量生座談会――読者視点から語る第三の波笹川吉晴×蔓葉信博×羽住典子×川井賢二
大量死理論について大森滋樹
綾辻行人『びっくり館の殺人』論浦谷一弘
失楽鏡儀『匣の中の失楽』論蔓葉信博

第二特集 「幻影城」の時代
戻りからくり――連城三紀彦と泡坂妻夫市川尚吾
泡坂ミステリ考――亜愛一郎シリーズを中心に横井司
未熟の浮上――中島梓/栗本薫の登場した七〇年代円堂都司昭
普遍と個別 幻影城評論叢書を巡る随想川井賢二
この世の旅人 田中文雄さんのこと笹川吉晴
特別寄稿 田中文雄さん飯野文彦

探偵小説評論賞
選考経過/選評波多野健/千野帽子×羽住典子
レイモンド・チャンドラーは「盗まれた手紙」の夢を見たか?小倉舵
探偵達の新戦略小田牧夫

解放区
エドガー・アラン・ポオとチャールズ・ダーウィン佳多山大地
やさぐれと崇高中辻理夫
ミステリドラマの現況千街晶之

特別区
続・断章後日譚――笠井潔の「魔境」千街晶之
リアルの変容――軒下補論市川尚吾

執筆者後記


「CRITICA」第4号 序文

 『CRITICA』第四号をお届けする。

 第一特集は「現代本格の状況」と題し、笠井潔が提唱した、いわゆる大量死・大量生理論をめぐる、四人の研究会員による座談を中心に据えた。『容疑者Xの献身』の評価をめぐっての議論が斯界に一石を投じたのが二〇〇六年のこと。その波紋は「CRITICA」第一号および第二号で特集「『第三の波』をめぐって」という形で現われている。にもかかわらず今号においても検証されることに、奇異な感じを抱く読者もおられるかもしれない。しかし、数度の論究・考察の果てに消費してしまうことは、問題を風化させるばかりであり、そうした風化を許すことは評論家として怠惰な姿勢ではないか、と判断した結果である。
 そうしたムズカシイ話は抜きにしても、いわゆる『容疑者X』論争や斯界の動向に対する定点観測として、面白い読み物になっていると同時に、読みようによっては、さまざまな問題提起をはらんでいて、興味は尽きないのではないかと自負するものである。
 大森滋樹の評論の言説をめぐるエッセイと、浦谷一弘・蔓葉信博の作品論もまた、現代の本格ミステリを囲繞する状況をあぶり出しており、座談会との親和性も高い。この親和性が何に由来するかを考察すると、現代本格ミステリの問題系が見えてくるのではないか。

 第二特集は、伝説の雑誌「幻影城」(に関わった作家たち)を特集した。『幻影城の時代』という同人誌が、さまざまな支持を受け、ついに公刊に至ったことは、昨年度の大きな収穫として記憶される。ところが、その公刊を待っていたかのように、今年に入って関係者が次々と鬼籍に入ってしまった。そのためあたかも追悼特集のような体になってしまったが、「幻影城」という雑誌と、そこから登場し、後の本格シーンに多くの影響を与えることになった書き手たちを、単にオマージュとして語るのではなく、きちんと論じてミステリ文学史上に位置づけることは、重要な作業であろう(なお、蔓葉の竹本論は、結論部分から判断して第一特集に回した)。
 なお、特別寄稿として作家・飯野文彦氏から田中文雄氏への追悼作品を得られたのは、望外の幸せであった。笹川吉晴のエッセイは、飯野氏の前書きを兼ねた追悼文だが、しんみりとした語り口の短文でありながら、前記「大量死大量生座談会」と併せ読むと、思わぬ発見が得られよう。

 本年は、探偵小説研究会が公募する評論賞から、二人の優秀作を掲載することがかなった。この時代、「評論」という「ジャンル」が必要とされているのかどうか、必要とされているにしても、それに活字という形で参入することに意味があるのかどうか、まさにクリティックな現場に立っている者にとっては真摯な問題といえようが、そういう現場に参入しようと志し、力作が寄せられたことは喜ばしい。斯界への刺激となることが期待されるのはもちろん、新たな書き手の登場に対して研究会のメンバーもますますの奮起を心がけたいと思う次第。

 特集外のコーナーとしては、まず「解放区」。エドガー・アラン・ポー生誕二〇〇周年に寄せて書かれた佳多山大地の文章を筆頭に、犯罪小説に関心の深い中辻理夫が伊集院静『羊の目』を評した文章に加え、映像系のミステリに造詣の深い千街晶之による、昨今の本格ミステリ系テレビ・ドラマの傾向を評した文章を収めた。時間やジャンルをクロスオーバーする愉しみに浸られたい。

 さらに前号に引き続き「特別区」を設け、斯界に波紋を呼んだ千街晶之の「断章後日譚」および市川尚吾の「本格ミステリの軒下で」の、それぞれ続編を掲載した。

 評論家とコメンテイターの違いはなにか、という問題については、簡単に答えを出すことはできない。だが、コメンテイターが資本の論理の中で消費される言説を繰り出していくだけだとしたら、手前味噌になるかもしれないが、「CRITICA」のような形で言説を繰り出していくことは、より評論行為に近いものだといえよう。語り続けることで、多様な視点・価値観を受容・議論する、ひとつの言語圏を形成していければ、それが引いてはジャンルを支える力となれば、これに勝る喜びはない。ご愛読を願う。



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