Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」創刊号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」創刊号(2006年 8月発行、A5版 320頁、イベント頒布価格1300円)

目次

「CRITICA」創刊にあたって(読む

特集1 「第三の波」の帰趨をめぐって
座談会/「第三の波」の帰趨笠井潔×諸岡卓真×小森健太朗
排除システムの両面性――座談会を終えて笠井潔
「ジャンル」と「つなぐ」線――座談会あとがき諸岡卓真
本格のなかの本格について諸岡卓真
パウル・ティリヒの別の箱小森健太朗
時計仕掛けの非情千街晶之

特集2 クイーン論の現在
瀬名秀明インタビュー瀬名秀明
(聞き手)法月綸太郎
『シャム双生児の謎』とダイイングメッセージの難題小森健太朗
現代本格ミステリのアポリア
 ――エラリイ・クイーン『シャム双生児の秘密』論
諸岡卓真
『ガラスの村』試論田中博

解放区
日本のミステリの祖、黒岩涙香つずみ綾
おわりからはじまる物語、はじまりでおわる物語鷹城宏
執事たちの深奥濤岡寿子
没コラム蔵出し市川尚吾
少年探偵団 is dead. 赤毛のアン is dead.
 ――文藝ガーリッシュ・嫌ミス流
千野帽子

悪女は悪女の如く死す佳多山大地
緑玉の神様と株式仲買人ファーガス・ヒューム、波多野健訳
ヒューム『緑玉の神様と株式仲買人』解説波多野健


「CRITICA」創刊にあたって

 1975年から1994年までの期間に蓄積された、国内の本格ミステリを概観するガイドブックである『本格ミステリ・ベスト100』(1997年・東京創元社)――その継承として、年度ごとの成果を評価することを目的とした『本格ミステリ・ベスト10』(1998年〜・東京創元社/原書房)や『本格ミステリこれがベストだ!』(2001年〜2004年・東京創元社)――綾辻行人以降の本格シーンを俯瞰した『本格ミステリ・クロニクル300』(2002年・原書房)の刊行に編者・執筆者として係わったり――さらに、1999年から始動したインターネット・サイト“e-NOVELS”にも参加して「週刊書評」のコーナーを担当したりと……1995年の結成以来、探偵小説研究会は、様々な形でミステリ・シーンにコミットメントしてきたし、また、会員それぞれが個々の執筆活動を通じてミステリの様々な可能性を探ってきたわけだが……
 2006年――新しい試みとして機関誌「CRITICA」を創刊することになった。商業出版物における紙幅の制限や編集方針など、主に出版社の都合である制約を逃れ、探偵小説研究会自身が企画・執筆・流通をトータルにコントロールでき、会員が思う存分に執筆できる場所……それが「CRITICA」である。
 もちろん“商業出版物”は言説空間の構築に大きな役割を果たしているし、探偵小説研究会としては、その場における仕事の意義も大切にしていきたいと考えている。しかし、一方で、そうした回路を経由せずに生産され、流通し、消費される膨大な言葉の群れがある。コミケに溢れる同人誌や、インターネット上の電子文字――それらは、商業出版物と一線を画しながら、相互に影響し合い、言説空間構築のルールを変えてしまった。探偵小説(ミステリ)も、そんな事態と無縁ではいられない。そこへ、探偵小説研究会は身をさらしてみようと考えた。
「CRITICA」創刊が、その第一歩である。また、それに並行する形で、探偵小説研究会独自のインターネット・サイトも用意したので、この冊子を手にした読者は参照してほしい。 
 状況の推移に対して、探偵小説研究会は、何やら臨界点を超えたらしい。まだ見通しもつかない試み……オズオズと踏み出した不細工な一歩であるかもしれないが、そこには一種の必然性があるはずだ。その必然性に、探偵小説研究会がどのように応えていけるのか? それは「CRITICA」を手にした読者が判定することになるだろう。色々な批判が巻き起こるかもしれない。しかし、逆説的だが、そうした摩擦熱を喰わないことには、この状況を生き延びることはできないのだ。

 創刊号のコンテンツは三つの柱からなっている。

1 「第三の波」の帰趨
 そもそも、探偵小説研究会は、本格ミステリの「第三の波」――綾辻行人の『十角館の殺人』(1987)を起点とし、それに続いて開花した様々な実作路線がもたらした本格ミステリ界を巡る状況の変化を背景として出発した。そうした流動的な事態に対して、既存のミステリ批評では対応できないのではないか…… 目指したはずの、そんな「新しいミステリ批評の枠組」を構築することに寄与できたかどうかは覚束ないが、そんな反省と並行して、「第三の波」は、起点から20年を経過しようとする時期に、曲がり角にさしかかっているようだ。その現状に、探偵小説研究会の会員が何を考えているのか? 現在進行形の思考の足跡として読んでいただきたい。

2 クイーン論の現在
 エラリー・クイーンという作家は、ミステリ史上において大きな役割を果たした。現代日本のミステリを考えるにあたっても無視できない存在である。昨年(2005年)は、クイーン生誕百周年にあたり、様々な出版企画がなされた。遅ればせながら……あるいは遅れたからこそ、ここで探偵小説研究会の会員は“何か”言いたいらしい。
 また、昨年『デカルトの密室』を刊行してクイーンへのシンパシイを表明した瀬名秀明氏をゲストとして招き、これまたクイーンに執着し続ける法月綸太郎がそれに応接するスリリングな対談も用意している。

3 解放区
 何だかんだと……もっともらしいことを述べてきたが……
 探偵小説研究会に集まったのは、わがまま勝手な奴らばかりで、実は、考えていることもバラバラで「探偵小説研究会としての見解」なんて“ない”のが現状であり、そこらへんをフォロウするのがこのコーナーである。勝手な奴らの勝手な言い草に、何かがあるかもしれない――というか、そういうところにこそ“何か”の芽があるだろう。いいかげんに度量の広い探偵小説研究会が自らにだらしなく許したスペースである。ただし、ここに書かれたものが「いいかげん」で「だらしない」わけではない。執筆者にとっての真摯な思考が、ここに書かれているはずだ。

 新しい試みである「CRITICA」は……これから、一体どんなものになるのだろう?

   2006年 7月 探偵小説研究会


■探偵小説研究会ホームページ

Copyright(C)-2006 Cooperative Research In Mystery & Entertainment. All right reserved