Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第20号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第20号
 (2025年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

特集――ジュヴナイル・ミステリ――子どもが読む、子どもを描く
名探偵(メシア)の復活――江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズ
『黒い魔女』覚え書き
浦谷一弘
「ジュブナイル」というジャンル――境界線とリライトとレーベル 波多野健
賢い小学生の問題 市川尚吾
特殊本格とメタフィクションは是馬と荒馬から学んだ 笹川吉晴
ズッコケ三人組と偶然的で不気味なもの 秋好亮平
 〈市場化する学校〉の探偵と青春――杉井光『生徒会探偵キリカ』論 荒岸来穂 
親鳥との再会――あかね書房版『ABC怪事件』を再読する 千街晶之 
記憶の路地をゆく――ジュブナイル体験をたどる旅 廣澤吉泰 
私のジュブナイルミステリ 諸岡卓真 
エピソード・ゼロとしてのジュヴナイル  大森滋樹 
魔術からの解放――ディキンスン覚え書き  法月綸太郎 
ケストナーのふたつの少年小説――出張版・こどもの物語、おとなの冒険  千野帽子 
オカルトはミステリの真相という夢を見るか?――今村昌弘『でぃすぺる』の試みと構築  浅木原忍 
スケッチブックに描かれた魂の一時避難所――『マリアンヌの夢』と『ペーパーハウス/霊少女』 松本寛大 
ハーマイオニーの夢の結婚相手は誰か?  佳多山大地 
ジュード・ワトソン『ジェダイ・クエスト』シリーズのアナキン・スカイウォーカー  小松史生子 
ジュブナイルの出口――『アルキメデスは手を汚さない』と『ぼくらの時代』  円堂都司昭 
自作解題――子供主人公にこだわる理由  羽住典子 
山本周五郎ジュブナイル書誌 末國善己 
ジュブナイルミステリ研究書紹介  嵩平何 

解放区
ミステリからパレスチナ問題を考える 第二回(出張版1) 蔓葉信博
アレグリ《ミゼレーレ》をめぐって――グランジェ『ミゼレーレ』とモックラー『極夜の灰』 横井司
原作と映像の交叉光線(クロスライト)
 出張版25/太陽、月、そして日蝕――『リプリー』 千街晶之
 出張編26/透明人間はそこにいる――『シリーズ横溝正史短編集』 千街晶之 
 出張編27/十万億土を越えて――『本心』  千街晶之 
 出張編28/狐と狼の内的世界(インナーワールド)――『小市民シリーズ』 千街晶之
『妄想アンソロジー式ミステリガイド』『本格ミステリ・エターナル300』刊行記念  
  トークイベント・『明日のミステリ』はどこへ向かうのか 千街晶之×法月綸太郎 

執筆者後記


序文

 『CRITICA』20号をお送りする。

 『CRITICA』が創刊されたのは二〇〇六年のことで、本号で創刊から20周年を迎える。キリ番でもあり、先に創刊10周年記念特大号でも行なったように、現在の研究会メンバーほぼ全員の原稿を揃えよう、という声は早い段階であがっていた。先の10号では、「江戸川乱歩歿後50年」というテーマで寄稿を募った。おそらくは探偵小説を愛する多くの読書人にとって「心のふるさと」であろう江戸川乱歩であれば、原稿が書きやすいのだろうと思われたからである。そこで今回は、誰もが通ってきたはずの子ども時代に接したミステリをテーマとすれば、やはり原稿が書きやすいのではないかと考え、当初は「ジュヴナイル特集」という緩い縛りで原稿を募った。ところが、ジュヴナイル特集であれば原稿が書きやすいのではないか、というのは昭和脳の発想だったようで、子ども時代にミステリを読まなかった(もっと幅広く本を読んでいた)という会員が何人かいたのは想定外だった。かつては、あかね書房の《少年少女世界推理文学全集》か、ポプラ社の少年探偵シリーズ、山中峯太郎訳ホームズ全集、南洋一郎訳ルパン全集などを通してミステリの魅力に目覚めたという思い出話が、ミステリ・ファンの読書会に参加すると飛び交ったものである。いや、さすがに峯太郎ホームズは、この序文の執筆者が子どもだった頃には、極端な改変や改訳は避けられるようになったこともあり、図書館はともかく書店の店頭からは姿を消していたように思うが、ホームズもの自体は各社競ってリライト版を出していたから、少年探偵団・ホームズ・ルパンの三位一体は崩れることはなかった。

 ホームズやルパンの登場する小説は、少年少女世界文学全集といった類の叢書には必ず入っていたし、かつてはエミール・ガボリオのルコック探偵なども必ず入っていたものだが、教養主義的な文学全集自体が、子ども向けのみならず、大人の読者を対象としたものすら企画されなくなって久しい。河出書房新社から刊行された池澤夏樹個人編集の世界文学全集(二〇〇七~二〇一一)や日本文学全集(二〇一四~二〇二〇)といった企画や、集英社文庫ヘリテージシリーズのポケットマスターピース(二〇一五~二〇一六)など、大人向けの全集は、従来の全集ものとは性格を異にした清新な企画として受け入れられたように思われるが、子ども向けの全集は書店から姿を消したようだ。講談社から出ていた《ミステリー・ランド》(二〇〇三~二〇一六)という、現役のミステリ作家の書き下ろし作品を収めていく叢書のコンセプトは「かつて子どもだったあなたと少年少女のため」と「かつて子どもだった」大人をも対象としているが、いわゆる全集とはいいがたい。

 だからといって、子どもが手にするミステリがなくなったわけではない。また、ミステリとは意識されていなくともミステリの要素を孕む作品は多く、それはミステリが特殊な文学ジャンルではなく、その文法が一般に浸透し広まったことを示しているともいえよう。ミステリ・ジャンルに限ってみても、まんがやゲーム、ヤング・アダルト作品まで含めれば、意外と裾野は広い。さらには大人向けであっても、子どもをフィーチャーした作品も多く書かれている。そこで、ジュヴナイル特集ではあっても、右にあげたジャンルやメディアに属する作品も含め、子どものために書かれたもの、子どもを描いたものなど、枠組みの幅を広げた上で、特集の総題を〈ジュヴナイル・ミステリ――子どもが読む、子どもを描く〉と、より寄稿内容に即したものへと変更した。そうして出来上がったのが、今回の記念号である。それによって、なんとなく曖昧で芒洋とした様相を示しているジュヴナイルと目されるテキストを取り巻く背景事情を反映したものとなったといえるのではないか。怪我の功名である。


 メイン特集への寄稿を強力に募ったこともあり、各々の興味に応じたテーマで論じる〈解放区〉の原稿は、いささか寂しいことになったが、いずれも力作であることは保証できる。千街晶之の長期連載も健在。前回に引き続き、当研究会が刊行した二著にまつわるトークイベントを掲載することができた。九州の書店で開催されたため、会場を訪れていない方も多いと思われる。今回の記事を通してその盛況ぶりを偲んでいただければ幸いである。


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