◆「CRITICA」第16号 目次◆
探偵小説研究会編著「CRITICA」第16号
(2021年 9月発行、A5版、表紙カラー)
目次
特集――高木彬光生誕101周年
高木彬光生誕百年企画(論創社・黒田明氏インタビュー) |
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背後へ
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巽昌章 |
鬼のための奇蹟――高木彬光の密室考察 |
飯城勇三 |
高木彬光と柳原緑風 |
嵩平何 |
『漫画タイム』という雑誌~初稿版「悪魔の嘲笑」に関して~ |
黒田明 |
帝国の死角はどこにあったか? |
秋好亮平 |
高木彬光と大坪砂男の論争を読む――天城一のエッセイに迂回しつつ |
横井司 |
解放区
「いつの間に後進国になったか」からの連想――21世紀本格のベーシック・インカムとPCR |
波多野健 |
仮面の男――ガストン・ルルー、江戸川乱歩、横溝正史、安部公房 |
円堂都司昭 |
原作と映像の交叉光線(クロスライト) |
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出張版17/クローズドサークルの二つの顔――『屍人荘の殺人』 |
千街晶之 |
出張版18/ガラスの崖と沼の底――『W県警の悲劇』 |
千街晶之 |
リーヴ「白い奴隷」解説補足 |
波多野健 |
(創作)逆ABCバーガーの謎 |
羽住典子 |
◆「CRITICA」第16号 序文◆
『CRITICA』16号をお届けする。
昨二〇二〇年は高木彬光生誕一〇〇周年(歿後二十五年)のアニバーサリー・イヤーだった。それに合わせて論創社から、入手難だった大前田英策ものの長編『黒魔王』単行本バージョン(一九五九)や『高木彬光翻訳セレクション』が刊行されたが、その他に目立った動きはなかったように思われる。
高木彬光は、かつての探偵小説ファンであれば、その読書歴において必ず通過してきた作家であり、高木作品を通して本格探偵小説の面白さに目覚めた読者も多かったのではないか。占い師の勧めに従って書き上げた長編『刺青殺人事件』(一九四八)を江戸川乱歩の許に送り、乱歩の推薦文を戴いてデビューした経緯はよく知られており、長編第二作『能面殺人事件』(四九)で第三回探偵作家クラブ賞(現・日本推理作家協会賞)を受賞。『刺青殺人事件』でデビューした名探偵・神津恭介は、その後も中短編「妖婦の宿」(四九)「鼠の贄」(五〇)「わが一高時代の犯罪」(五一)や、長編『人形はなぜ殺される』(五五)『成吉思汗の秘密』(五八)などで活躍し、明智小五郎・金田一耕助と並んで日本三大名探偵としての地位を築いた。松本清張『点と線』の連載が始まった一九五七年には前述の大前田英策をデビューさせ、六〇年代に入ってからは『誘拐』(六一)『破壊裁判』(同)などの弁護士・百谷泉一郎シリーズ、『検事霧島三郎』(六四)以下の霧島シリーズ、『黒白の囮』(六七)などの検事・近松茂道シリーズ、『黄金の鍵』(七〇)以下の墨野隴人シリーズなどを発表。時代のニーズに合わせて様々なキャラクターを創造した。角川映画として知名度の高い犯罪小説『白昼の死角』(五九~六〇)や、第二次大戦秘話を扱う大作『帝国の死角』(七〇~七二)など、ノン・シリーズにも注目作が多い。
これらの中で、何といっても支持を集めているのは名探偵・神津恭介シリーズであろう。ファンクラブがその名称に高木彬光ではなく神津恭介の名を冠していることからも、それがうかがえる。だがその神津恭介の一般的知名度も、二〇一五年に『呪縛の家』(四九~五〇)がドラマ化されたものの、あまりかんばしいものとはいえない。
かつては本格探偵小説ファンなら、ほとんど誰もが『刺青殺人事件』や『能面殺人事件』、『人形はなぜ殺される』を読み、そのトリックや意外な解決に酔いしれたものだが、現在ではどうだろう。『刺青』や『人形』、『成吉思汗』『邪馬台国の秘密』(七三)の二大歴史推理、そしてノン・シリーズでは『白昼の死角』を除けば、ほとんど入手が難しいというのが現状だ。電子書籍であればそこそこフォローできるものの、書籍という形を愛する者としては寂しい。
書籍として簡単に手に取ることができるのは、前掲の『黒魔王』やディクスン・カー『帽子蒐集狂事件』他の訳業、またオンデマンド出版による捕物帳の千両文七シリーズだけ、という状況は、本誌14号で特集を組んだ鮎川哲也とよく似ているといってもいいかもしれない。高木彬光を単独で取り上げた評論書が少ないのも鮎川と同様だ。管見に入った限りでは、有村智賀志『ミステリーの魔術師―高木彬光・人と作品』(一九九〇)の他は、長女の回想録である高木晶子『想い出大事箱―父・高木彬光と高木家の物語』(二〇〇八)くらいしか商業出版では見当たらないのである。同人誌や私家版での出版が多いことに比べて、寂しさを禁じ得ない。本誌もまた、そうした同人出版に連なるものであるわけだが、今回の特集によって、高木作品の再考・再評価につながれば、これに勝る喜びはない。
現代本格を対象とする第2特集については、波多野健が論考を寄せてくれたが、現代日本の本格のみを対象としているわけではないことでもあり、解放区にまとめさせてもらうことにした。その解放区は、右の波多野が前号に掲載した翻訳の追加解説の他、円堂都司昭の仮面がからむミステリについての論考、千街晶之の連載「映像と原作の交叉光線」、羽住典子の創作など、バラエティに富んだものになったのではないかと自負するものである。
最後になったが、今回、飯城勇三氏の長編力作を掲載できたこと、論創社の高木彬光本を担当している黒田明氏から貴重なお話を伺えただけでなく、玉稿までいただけたことは、多とする次第である。お二人に参加いただき特集にも厚みが加わることとなった。感謝する次第です。
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