Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第11号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第11号
 (2016年 11月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

第1特集――海外古典ミステリ再見
海外古典救済座談会 市川尚吾×川井賢二×羽住典子×横井司
昭和十年のレドメイン・ショック
市川尚吾
G・D・H&M・コール――『百万長者の死』と『ブルクリン家の惨事』 横井司
 リーマンの名のもとに――『僧正殺人事件』と『容疑者Xの献身』  川井賢二
 ヴァン・ダインと初心  巽昌章
 ヘレン・マクロイ――異物感と気色悪さの拠って来たるところ 波多野健 

第2特集――現代本格をめぐって
本格とカジュアルとの距離 小田牧央
〈特別寄稿〉ジョルジュ・ペレックと後期クイーン的問題 秋好亮平

解放区
乱歩の余白/余白の乱歩(その2――番外) 巽昌章
原作と映像の交叉光線・出張版3/予言者と群衆――『天空の蜂』 千街晶之
原作と映像の交叉光線・出張版4/汚水に沈む黄金――『誰よりも狙われた男』 千街晶之
 原作と映像の交叉光線・出張版5/道化師たちの貌――『ジョーカー・ゲーム』  千街晶之
 『オペラ座の怪人』のキス  円堂都司昭
 交響曲『HIROSHIMA』をライトノベルとする新垣隆氏の発言について  川井賢二
 〈創作〉愛しの我が子  羽住典子

執筆者後記



「CRITICA」第11号 序文

『CRITCA』11号をお届けする。

 今回の特集は「海外古典ミステリ再見」としてみた。

 国書刊行会の〈世界探偵小説全集〉(一九九四~二〇〇七)が成功して、各社がクラシックの本邦初訳作品の刊行にしのぎを削った時期があった。翔泳社、晶文社、新樹社、小学館、原書房、論創社などが、次々と新しい作品を発掘し、そうした流れの中で多くの作家が再評価の機会を得た。本年をもって原書房の〈ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ〉は終了し、クラシック・ミステリ専門といっていいレーベルは論創社くらいになってしまい、かつての盛況も近年は収束に向かいつつあるものの、本邦初訳のクラシック・ミステリを受容する層が形成されて久しい。だがその一方で、従来、古典としてよく知られ読まれてきた作品が絶版・品切となり、読まれなくなってきているのではないか、という状況も少なからずあるように思われる。

 よく知られた作家、人気のある作家の場合は、改訳・新訳されて刊行されることもある。代表的なのは(本格ジャンルに限ってだが)ジョン・ディクスン・カーやG・K・チェスタトンだろう。パトリック・クェンティンを含めてもいいかもしれない。また旧訳が装丁を改めて再刊されることもある。最近ではクレイトン・ロースンの『棺のない死体』が再刊されたのが記憶に新しい。

 本邦初訳の流れに乗れないのはもちろん、改訳・新訳の流れにも乗れず、忘れ去られていく作品の中には、かつてはミステリ史において重要な作家として位置づけられ、名前が知られ、読まれていたものも多い。クラシック・ミステリ・ブームとはいいながら、そうした作品は読まれていないのが現状ではないか。そんな思いから、歴史的名作と呼ばれた、いわゆる古典の再検討をしていこうというのが、今回の特集の趣旨である。

 イーデン・フィルポッツなどは、旧邦題『誰が駒鳥を殺したか?』の新訳が同時に二社から刊行されたり、名のみ知られてきた『極悪人の肖像』が初めて訳され、かつて『別冊宝石』に抄訳が載ったままだった『密室の守銭奴』が改題新訳されたりと、読まれていない古典作家というイメージを覆しつつある。それでも、というか、それゆえに、というか、従来、古典として重視されてきた『赤毛のレドメイン家』や『闇からの声』は、むしろ読まれていないのではないか。作家的にはかつて絶大な支持を得ていたかに見えるS・S・ヴァン・ダインは、本格観の変化もあってか、根強い支持を得ているとは思えない。それはエラリー・クイーンの国名シリーズの新訳が二社から進んでいるのに比べ(角川文庫の新訳シリーズは完結)、ヴァン・ダインの新訳は第一作の『ベンスン殺人事件』で止まったままであることからも明らかであるように思う。

 そうした状況に改めてスポットを当て、従来の古典を見直し、再発見された知見と魅力が伝われば、幸いである。


 現代本格をめぐる論考は少なくなったが、いずれも長文の論考で、質という点では遜色がないと考える次第。

 第1特集の趣旨が右に述べたようなものであったため、秋好亮平さんからいただいた特別寄稿は、海外作家を対象としているにもかかわらず、現代本格をめぐる第2特集へと回させていただいた。ジョルジュ・ペレックという、本格ジャンルではあまり言及されることのない作家を取り上げた本論考は、本格観の広がりを示したものであり、後期クイーン的問題がミステリ論の今なお重要で有効な思考ツールであることをよく示す力作であるといえよう。

「解放区」では、千街晶之が映像作品を三つも取り上げており、円堂都司昭の舞台鑑賞と合わせて、視覚系の作品論のプチ特集のような形となった。これに、交響曲を俎上に載せた川井賢二の論考や巽昌章の乱歩考、羽住典子の創作などを加え、実にバラエティに富んでおり、探偵小説研究会らしい―といってしまっては手前味噌になるだろうけれども。

 事情により刊行が遅れたが『CRITCA』は今後も続けていく予定である。そうした会員の意欲を伝えるだけでなく、ミステリについて考察するよすがとなっていれば、これにまさる喜びはない。御愛読を願う次第である。


■探偵小説研究会ホームページ

Copyright(C)-2006 Cooperative Research In Mystery & Entertainment. All right reserved