Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第10号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第10号
 (2015年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

第1特集――江戸川乱歩歿後50年
江戸川乱歩作品と後期クイーン的問題――「一枚の切符」から「石榴」まで 横井司
「人間椅子」は何小説か
並木士郎
「目羅博士」を読む 佳多山大地
 「少年探偵団」の本当のヒーローは?  小松史生子
 よるの夢がまことであるということ 江戸川乱歩とロマン主義  千野帽子
 江戸川乱歩と六十五年後の〈奇妙な味〉 川井賢二 
 乱歩の余白/余白の乱歩(その1)  巽昌章
 乱歩妄想 笹川吉晴 
 乱歩歌舞伎 感想 円堂都司昭 
 鬼の叫び――『孤島の鬼』観劇記  千街晶之
 〈アンケート〉思い出の乱歩作品  
  「魔術師」  市川尚吾
  「魔術師」「地獄の道化師」「パノラマ島奇談」  浦谷一弘
  「魔法博士」   戸川安宣
  『江戸川乱歩名作集3 屋根裏の散歩者』    廣澤吉泰
 〈特別寄稿〉『奇譚』周辺  中相作

第2特集――現代本格をめぐって
怪物の愛 小田牧央
異世界ミステリとテリトリー空間 大森滋樹
 形式の原理あるいは本格ミステリの形式性についての試論 蔓葉信博 
「推理小説の論理」をめぐって――『探偵小説の論理学』批判(その3) 巽 昌章 
 鼎談「ミステリー×インターネット」レポート 構成・諸岡卓真 

解放区
ジャパニーズ・クライム・ビート 中辻理夫
『山本周五郎探偵小説全集』拾遺――新発見作品解題 末國善己
 原作と映像の交叉光線・出張版2/復讐は雪の夜に――『オリエント急行殺人事件』 千街晶之
 『進撃の巨人』考――巨人の故郷を探して  鷹城宏
 ヤッフェ覚え書き  法月綸太郎
 ファーガス・ヒューム再発見――推理小説史の書き変えをせまる『ピカデリー・パズル』  波多野健
 「戦後70年 中井英夫と尾崎左永子」展について(展示レポートと紹介文再録)  濤岡寿子
 〈創作〉黒いすずらん  羽住典子

執筆者後記



「CRITICA」第10号 序文

 『CRITICA』10号をお送りする。

 『CRITICA』が創刊されたのは二〇〇六年。創刊号の序文「『CRITICA』創刊にあたって」において、探偵小説研究会は次のように宣言している。

 二〇〇六年――新しい試みとして機関誌「CRITICA」を創刊することになった。商業出版物における紙幅の制限や編集方針など、主に出版社の都合である制約を逃れ、探偵小説研究会自身が企画・執筆・流通をトータルにコントロールでき、会員が思う存分に執筆できる場所……それが「CRITICA」である。
 もちろん〝商業出版物〟は言説空間の構築に大きな役割を果たしているし、探偵小説研究会としては、その場における仕事の意義も大切にしていきたいと考えている。しかし、一方で、そうした回路を経由せずに生産され、流通し、消費される膨大な言葉の群れがある。コミケに溢れる同人誌や、インターネット上の電子文字―それらは、商業出版物と一線を画しながら、相互に影響し合い、言説空間構築のルールを変えてしまった。探偵小説(ミステリ)も、そんな事態と無縁ではいられない。そこへ、探偵小説研究会は身をさらしてみようと考えた。「CRITICA」創刊がその第一歩である。


 創刊号の第一特集は「『第三の波』の帰趨をめぐって」、第二特集は「クイーン論の現在」である。この当時は東野圭吾の『容疑者Xの献身』(二〇〇五)の評価をめぐる議論が喧しかったころである。また法月綸太郎の「初期クイーン論」(一九九五)が発表されて以来、後期クイーン的問題が重要な論題として定着したころでもあった。『CRITICA』はこうした状況を受け、自立した評論活動の確立を目的として創刊された。

 とはいうものの――

 「解放区」というセクションは、創刊号の序文で次のように紹介されている。

 探偵小説研究会に集まったのは、わがまま勝手な奴らばかりで、実は、考えていることもバラバラで「探偵小説研究会としての見解」なんて〝ない〟のが現状であり、そこらへんをフォロウするのがこのコーナーである。

 実をいえば、ここらへんが、いちばんの本音であったのかもしれない。『CRITICA』が10年にわたって続いてきたのも、特定の見解にとらわれず、自由な発想を旨としてきたからではないかと、考える次第である。

 さて、記念すべき10号は、本年歿後50年を迎える江戸川乱歩の特集をメインとした。日本探偵小説のふるさとであり、慈父でもある乱歩は、現在においても衰えることなく読者の支持を集めている。折しも歿後50年を記念して、乱歩をめぐるさまざまな「商業出版物」も刊行され、映画や舞台の他、『乱歩奇譚 Game of Laplace』というアニメも制作されている。そうした乱歩をめぐる言説空間の中に、探偵小説研究会がいかに参与していくのか。
 なお、江戸川乱歩が作家になる以前に編集した手製本『奇譚』を復刻された中相作さんから、お忙しいところ特別寄稿をいただいたことは、初の乱歩特集を編んだ『CRITICA』にとって幸甚であった。
 他に、現代本格をめぐる論考や、創刊号以来の「解放区」も健在である。ミステリの「今」を汲み取っていただければ幸いである。

 今回はキリ番ということで、現在の研究会メンバーほぼ全員の原稿を揃えてみた。個々人での活動が多忙を極めている中、フルメンバーによる寄稿の実現は奇蹟のようなものである。結果的に、通常号よりも大幅なページ増になってしまったけれども、探偵小説研究会が相も変わらず「見解」なんてない「わがまま勝手な奴ら」の集まりであることを示せたのではないかと思う。御愛読を請う。


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