◆「CRITICA」第6号 目次◆
探偵小説研究会編著「CRITICA」第6号 (2011年 8月発行、A5版、表紙カラー)
目次
第一特集――島田荘司デビュー30周年
写楽探求――『写楽 閉じた国の幻』の応答 | 波多野健 |
島田荘司「リベルタスの寓話」考 | 横井司 |
奇想の現在(試供版 ※別サイトが開きます) | 小田牧央 |
回想の『島田荘司 very BEST 10』 | 佳多山大地 |
第二特集――現代本格の状況
ゲーム系ミステリの思想(試供版 ※別サイトが開きます) | 小田牧央 |
『謎解きはディナーのあとで』は本格ミステリ界を救えるのか? | 羽住典子 |
編集される推理――藍霄『錯誤配置』論 | 諸岡卓真 |
極私的評論論 | 市川尚吾 |
解放区
モルグ街の解剖――サー・トマス・ブラウンの影の下に | 鷹城 宏 |
アガサ・クリスティーの短編小説をめぐる断章集 | 川井賢二 |
狂い咲くミステロイド | 千街晶之 |
乱歩歌仙 | 巽 昌章 |
◆「CRITICA」第6号 序文◆
『CRITICA』第六号をお届けする。
今回は、今年二〇一一年がデビュー三〇周年となる島田荘司を記念して、第一特集とした。『占星術殺人事件』が世に出たのが一九八一年一二月のこと。それ以来、綾辻行人を初めとするいわゆる新本格ミステリ作家のデビューに関与しただけでなく、本格ミステリー論や21世紀本格論などを提唱し、近年ではアジア本格の発掘・紹介に力を注ぎ、斯界に問題を投げかけ、その発展に寄与してきた作家を論ずることは、斯界の現状を論ずることにもなる――と、いいきれるかどうかは、読者の判断を待ちたいところだが、現在のところの最新長編である『写楽 閉じた国の幻』を論じた波多野健の論考は、島田の同作と切り結んでいてスリリングであろうし、佳多山大地のエッセイは、島田の中短編を俯瞰するのに便利であろう。島田の本格ミステリー論の行方を追った論考や、中編一本へのアプローチに絞った論考など、『CRITICA』ならではの視点が出ているのではないかと自負するものである。
島田荘司という存在自体が、現代本格ミステリを鳥瞰する補助線となるのはいうまでもない。とはいえ、現代本格は、島田荘司という恒星を中心に廻っているわけでは、もちろん、ない。島田荘司という恒星を離れた視点から現代本格ミステリの状況を論じたものを集めて、第二特集〈現代本格の状況〉とした。ゲーム系ミステリを論じた小田牧央の論考は、後期クイーン的問題への視座を含み、斯界の一傾向への視点を提供するのではないか。本格ミステリがベストセラーとなる状況をフィーチャーした羽住典子の論考は、自身が創作主体であるだけに、示唆に富んでいる。台湾のミステリに対する論考をここに含めるのはいかがなものか、と思われる読者もいるかもしれないが、島田荘司の活動によってアジア本格が注目されていることを思えば、これまた現代本格シーンにかかわるものであることは、論を俟たない。そして最後に据えた市川尚吾の、現代本格に対する論考をめぐる問題は、島田荘司の評論家的活動ともリンクし、〈現代本格の状況〉をめぐる特集の末尾に置かれるに相応しいと考えた次第。
解放区では、本格ミステリの始祖エドガー・アラン・ポーや、本格ミステリの女王アガサ・クリスティーを論じた二大論考を筆頭に、映像表現における本格シーンを追い続けている千街晶之の中間報告的エッセイ、そして巽昌章による戯作的な(というより雑俳的な)試みを掲載した。中でも巽の寄稿は、既存の評論という枠組みでは実践できない批評的な試みであり、まさに「解放区」にふさわしい、といってしまっては自賛に過ぎようか。とはいえ、学術的なスタイルを通さない形での評論というものも、あるのである。
今年は、東日本大震災という「想定外の」災害を経験し、様々なジャンル、様々なステージで、表現することのありようが問われることとなった。最終的には、自分のやれる範囲でやれることをやるしかない、というフレーズが合言葉のように氾濫したという印象がある。それぞれの表現行為においての、被災地への真摯な言葉が繰り出された。ただ、思うに、そうした言葉の合唱が、震災への言及や被災地への言葉抜きの表現を抑圧している、ということには自覚的でありたいと思う。だから、そういう言葉を発するな、といいたいわけではない。そういう言葉をアリバイとしなければ言葉を発し得ないことへの自覚ぐらいは持ちたいということである。でなければ、ミステリについて論じることなど、少なくとも今年に限っては、できなくなってしまうと思うからである。
そうした時代や状況において、なおミステリを論じることの意味や、なおミステリを論じることを選び取った姿勢の意味を、本書収録の各論考から感じ取っていただければ幸いである。
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