◆「CRITICA」第3号 目次◆
探偵小説研究会編著「CRITICA」第3号 (2008年 8月発行、A5版、表紙カラー、イベント頒布価格1500円)
目次
第一特集 現代日本ミステリの状況
本格ミステリの軒下で | 市川尚吾 |
日常と幻想のグレーゾーン | 千街晶之 |
錯視/策士(trick/ster) | 鷹城宏 |
伊坂幸太郎論 | 大森滋樹 |
The Dead ――桜庭一樹小論のための覚書 | 川井賢二 |
第二特集 海外古典リバイバル
座談会 「海外クラシック・ミステリ放談」 | 戸川安宣×法月綸太郎×横井司 |
『毒入りチョコレート事件』第七の解答 | 佳多山大地 |
フランシス・アイルズ小論 | 佳多山大地 |
解放区
叙述トリック戯言 | 羽住典子 |
B級ミステリ映画への招待 | 千街晶之 |
不倫と平和主義 | 中辻理夫 |
四つの塔と桜の木――篠田真由美『桜闇』の二重螺旋四部作について | 濤岡寿子 |
探偵小説評論賞波多野健/市川尚吾×千野帽子×鷹城宏
特別区
「断章後日譚」のプロローグ | |
断章後日譚――加賀美雅之氏および笠井潔氏への返答 | 千街晶之 |
「断章後日譚」千街さん原稿への応答 | 小森健太朗 |
横溝正史論 人形時計(下) | 巽昌章 |
◆「CRITICA」第3号 序文◆
「CRITICA」も、第3号を発行できることとなった。ひとえに、読者にめぐまれたおかげである。この場をかりてお礼を申し上げたい。
振り返れば、創刊号の年(二○○六年)には『容疑者Xの献身』(東野圭吾)を巡って様々な議論が巻き起こっている最中であった。この問題は、単に『容疑者Xの献身』という作品の評価問題にとどまらず、ジャンルの問題や批評のあり方をあらためて意識させることになった。やはり一つの曲がり角≠ナあったと考えて良い。曲がり角を曲がって、さて真っ直ぐな見通しのよい道に出たのか? と、いうと……そうでもない。
新本格≠フ登場以降、ダイナミックにシーンが動いていた時、そこには流動的で漠然としたものであれ、求心性めいたものが感じられた。それが単なる期待感に煽られた気分のようなものであったとしても、その渦に批評も巻き込まれ、ジタバタと踊ることができた。
今、日本のミステリ・シーンは妙に落ち着きを見せ、その一方で、明確な像を結ばずに、曖昧な輪郭の中で睡んでいるように感じられる。多様な傾向の作品――様々なスタイルの批評――それらの蓄積が一種の飽和状態に達したのかもしれない。しかし、曲がり角を曲がる時に貯めこまれたエネルギーが解放されたわけではない。提起された問題は、様々なスレ違いのうちに消えたようにみえるかもしれないが、解決されたわけではなく、新しい形で提起される未来の問題に引き継がれたと考えるべきだろう。
「第一特集」では、現代日本ミステリ・シーンに潜在する問題をまさぐるような原稿を集めた。「本格ミステリの軒下で」(市川尚吾)は、新本格∴ネ降の本格観の変容を丁寧に、粘り強く考えることで現状にコミットメントする試みだ。「日常と幻想のグレーゾーン」(千街晶之)は、一見して別のベクトルに支配されているようにみえる「日常」と「幻想」を敢えて天秤にかけ、探偵小説的なシステムを相対化し、ひいてはリアリズムなるものを問い直す作業であり、これもまた現状に接近しようとする一つのアプローチである。道尾秀介、伊坂幸太郎、桜庭一樹といった新本格以降≠ニみなされる作家についての考察も参照されたい。
「第二特集」には、一転して海外の古典作品に関する文章を配した。日本の現代ミステリ・シーンに直接繋がるものではないが、近年の翻訳状況を介してセイヤーズやバークリー(アイルズ)が従来の評価を改めたことは確かである。そこに、現代日本の状況が反映しているだろうし――あるいは、鼎談で、戸川安宣が語り法月綸太郎が受ける古【ルビ:いにしえ】の翻訳事情が、今から思えば運命のように、新本格≠フ起爆剤の一つとなったことも確かだ。現在行われている海外古典作品の紹介も、また新たなムーブメントの種にならないとも限るまい。
会員の恣意にまかせた「解放区」の原稿にしても、それぞれが抱えている現在の問題意識を経由しているわけで、第一特集に収められた原稿と、どこかで共鳴している。批評というものは(小説というものも)順接するにしろ、逆接するにしろ――あるいは無関係を装って背を向ける姿であれ、ともかく時代に関わらざるをえない。
「だから解ってよ」と甘えたいわけではない。むしろ、時代の束縛を前提に意地悪く(批判的に)読むことで、読者にも得るところがあるだろう。それでこそ、自身の読書を相対化する契機にもなるだろう。批評なんぞを読む喜びは、半分くらいはそんなモノ≠セ。
さらに、「特別区」という枠で続きものを配した。「断章後日譚――加賀美雅之氏および笠井潔氏への返答」(千街晶之)は、例の『容疑者Xの献身』騒動の余韻を引きずった文章で、野次馬的興味で読むのも面白いが、これもまた、曲がり角で荷崩れを起こしたジャンル力学の一端として抽象化すれば、面白がってもいられない問題に触れることができるだろう。前号で尻切れトンボであった巽の「横溝正史論」も掲載することができた。今回も、けっこうなボリュームになった。
この調子だと、来年も読者の皆さんのご機嫌を伺うことになりそうである。また、よろしく、お願いします。
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