◆「CRITICA」第2号 目次◆
探偵小説研究会編著「CRITICA」第2号 (2007年 8月発行、A5版 330頁、表紙カラー)※完売しました。
目次
第一特集 続・「第三の波」の帰趨をめぐって
探偵小説批評の10年――花園大学公開講座 | 笠井潔×巽昌章×法月綸太郎 |
崩壊後の風景をめぐる四つの断章 | 千街晶之 |
現代ミステリにとって何が問題なのか | 田中博 |
少年探偵団は二度死ぬ。――ジャンルを語ろうとして | 千野帽子 |
第二特集 横溝正史論
横溝作品に見た長編の《構図》 | 市川尚吾 |
横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』考 | 佳多山大地 |
人形時計(上) | 巽昌章 |
探偵小説研究会評論新人賞優秀作掲載
探偵小説評論賞 優秀作・奨励作の掲載にあたって | |
「戦後」探偵小説論 | 山本悠 |
論理=遊戯 | 川井賢二 |
解放区
没コラム即出し | 市川尚吾 |
道尾秀介の「眼」 | 円堂都司昭 |
一九九○年代以降のジャーロ映画 | 千街晶之 |
君が望む永遠? 〜乱鴉の島、大鴉、AIR〜 | 鷹城宏 |
殺しと煩悩 | 中辻理夫 |
トゥーイ拾遺 | 法月綸太郎 |
記述による奇術 | 羽住典子 |
創作小説と翻訳
折州家の崩壊 | 天城一 |
「折州家の崩壊」解説 | つずみ綾 |
女だけの陪審団 | スーザン・グラスペル・著/波多野健・訳 |
「女だけの陪審団」解説 | 波多野健 |
◆「CRITICA」第2号 序文◆
昨年(二〇〇六年)夏に刊行された『CRITICA』創刊号に引き続き、第二号をお届けする。同人誌形式としては異例のボリューム(320頁)となった創刊号は、受け取られ方は様々あったろうが、こちらの期待を上回る反響を招来し、初版完売を経て増刷をすることになった。個々の論に関して多大な反響を呼んだり、反発を招いたりと、様々な反応があったが、ともかくも、現代ミステリの評論シーンにおいて一石を投じ、その活性化や問題提起にある程度以上の貢献を果たした面があったと信じる。
昨年に引き続いて、今回刊行される「CRITICA」二号は、創刊号以上に問題提起的・挑発的・示唆的な論考を集成することができた。
第一特集「続・第三の波の帰趨をめぐって」は、創刊号の第一特集を引き継ぐ形で、現在のミステリ・シーンに対するさまざまな角度からの考察や論考を呈示しようとする試みである。笠井潔・巽昌章・法月綸太郎の三氏による鼎談「探偵小説批評の10年」は、昨年六月に花園大学で催されたシンポジウムの内容の収録である。既に昨年冬にこの鼎談のみを「CRITICA」特別号として刊行しており、今回はその再録である。現在のミステリ界やその周囲の状況に切り結ぼうとする、千街・田中・千野氏の意欲作をお読みいただきたく思う。
第二特集は、先頃生誕百年を迎え、再評価の脚光も浴びつつある大家・横溝正史論の特集である。市川・佳多山・巽氏による横溝論は、それぞれに興味深い視座が提示され、現代的な横溝作品に新たな光をもたらすものがある。(なお、巽氏の論考は、後半部は次号掲載が予定されている)。
また、探偵小説研究会では、昨年ウェブページ上で、評論新人賞の原稿を募集した。受賞作は「ミステリーズ!」(東京創元社)に掲載される予定であったが、残念ながら会の選考では受賞作を出すにはいたらなかった。しかし、注目すべき論が複数作投ぜられていて、その中で特に優秀と認められたのが、本誌に収録した山本・川井両氏による長文の力作評論である。両作とも、投稿時の原稿に比べて加筆と改稿がなされていて、応募時よりも格段の進境をとげている。いずれもが、ミステリ評論として、現在的に読まれるに値する論考であり、無視することができない問題提起が含まれていると考える。ミステリ評論界に新風を吹き込む新鋭の力作評論を堪能していただきたい。
特にテーマの縛りを設けない「解放区」にも多彩なミステリ論などが集められた。ここに集められた諸論は、探偵小説研究会に属する諸氏の興味関心の多彩さ・多様さを反映するものであるとともに、現在のさまざまな状況や問題を反映する(乱反射かもしれないが)ものとなっている。
また、会員ではない方からの寄稿として、天城一氏から貴重な新作短編を提供いただいた。天城一氏の厚意にあつく感謝する次第である。ご味読いただきたく思う。波多野健氏による、スーザン・グラスペルの短編『女だけの陪審団』は、『クイーンの定員』にも選ばれ、米英の多くのアンソロジーに収録されている傑作と定評のある作品でありながら、これまで日本に翻訳されてこなかった作品である。史的意義としても貴重であり、この作品の翻訳を待望していたミステリファンも少なからずいたと思われ、そういう貴重な短編紹介を本誌に掲載できたことは大きな慶びである。
現在のミステリ界の状況は、混乱や葛藤、相剋といった現象も顕在化している面があり、定点となるべき重心や、未来への指針が見いだしにくいところにさしかかっている。その中にあって、ささやかながらも指針と光をもたらす試みとして、探偵小説研究会はこの「CRITICA」を刊行する次第である。この刊行が好評と要望を持って迎えられるなら、この試みは今後も継続していきたいと考える。
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